ガイガーカウンタを作ろう
〜 プロジェクト ひとりでできるもん! 〜
First Relese: 7th, Apr, 2000
Last Update: 17th, Dec, 2000
おわび
製作前の工作参加者向けに作成した資料を公開していたつもりでしたが、永らくリンクが落ちていました。ダウンロードを試みて下さった皆様ごめんなさい。ま、一度のクレームもなかったし、中身も知れてるので、影響の出た方はほとんどおられないと思います。
なお、リンク落ちなどを発見されましたら、おヒマな時にでもメールにてご通知いただけると幸いです。 (27th, Oct, 2000)
概要
2000年1月29日と30日の両日、新潟県下田村の越後長野温泉嵐渓荘で開催された「NISOC インターネット合宿」の余暇として、ガイガーカウンタを製作しました。これは、その時のメモです。
キットについて
「ポケットガイガーカウンタキット」は、浜松ホトニクス製の D3372 というガイガー・ミュラー管 (以下、GM 管) を利用したガイガーカウンタです。電子工作ではお馴染みの秋月電子通商から発売されています。
このキットの特徴は、次の通りです。
- 検出できる放射線
- γ線
高エネルギー・β線 (500KeV 以上)
X線 (60KeV)
- フルキット
- プリント基板や各種電子部品等の他、ケースや電池までが、キットに同梱されています。キットのみで、製作後すぐに鳴り始めます。
- 電源
- 消費電力は、非検出時 200μA、検出時 1mA (Max) です。
9V (006P) が付属していますが、500 時間以上使用できるそうです。その後、このコンテンツを公開するまでの約 2 ヵ月間 (1400 時間以上) 問題なく動作を続けています。
その後、4 ヵ月近く経過した 5 月中旬から鳴りが悪くなり、6 月を迎える前に完全に鳴らなくなってしまいました。 (2nd, Jun, 2000)
- 説明書
- キットに付属の説明書には、放射線の検出についての細かな説明の他、浜松ホトニクスの GM 管のデータシートと放射線に関する実験法についての論文のコピーが含まれます。
パーツリスト下に部品が多めに入っているとの記述がありますが、見事にピッタリでした。「余ったら保守用に・・・」とありますが、保守は実費になりそうです。
- その他
- 事前にこのキットについてインターネット上で検索しました。驚いたのは、「ガイガーカウンタが売ってる秋月電子通商」という記述が多いことです。そのわりに製作に関する情報がほとんどないのもおもしろいです。
どうやら、このキット、高校の物理の実験について研究されている先生方には人気商品らしく、物理実験に係わる多くの情報源にこのキットが紹介されていました。
このキットには、ガイガーカウンタ部分だけの「電子音検出タイプ」 (\5,700) と 「LCD 直読タイプ」 (\9,700) があります。「直読タイプ」では、4・1/2桁周波数カウンタキット (単体で購入すると \4,700) が含まれます。個別に買うよりお得な価格設定ですが、この周波数カウンタは、LSI のお化けなので、気を使うハンダ付け箇所が大量にあります。
西原理恵子さん著「できるかな」(扶桑社刊) に出てくる「おしゃれピコ」は、この周波数カウンタによって検出された数値の単位と思われます。つまり、蕎麦屋のカウンタで検出された 「0.083 おしゃれピコ」は、1 分当たり約 5 回の放射線を検出したことになります。
その後、公開された「ガイガーカウンタ用液晶カウンタを作ろう」によると「LCD 直読タイプ」は、アップカウンタとして製作するよう説明書に記述があるようです。ってことは、「できるかな」に出てくるカウンタとは製作方法が異なっています。説明書自体がキットの内容とともにバージョンアップしている可能性もあるので、時代が違うのかもしれません。 (25th, Apr, 2000)
資料
製作前の工作参加者向けに資料 (49664Bytes) を作成したので公開します。貧乏なおかげで、多くの方に読んでいただけると思う Microsoft 社製 PowerPoint for Macintosh の文書です。興味のある方はご一読下さい。
* 筆者は M$ が嫌いです。念のため。
キットに付属の説明書にも詳細な記述があります。そんなに難しくないので、熟読されることをお勧めします。
組み立て
専用基板があり部品点数も少ないので、ハンダ付けの必要な箇所は、70 くらいです。IC については、ソケットがついています。他の半導体も、回路上、多少足を長めにしても問題ないので、取付の向きさえ間違えなければ、特に問題なく製作できます。
合宿では、しくじった人もいましたが、2 次会終了後の深夜 2 時過ぎにへろへろで製作していたのでご愛敬です。
最初の作業は、基板を切断線にそって切り取ります。説明書にも記述がありますが、この裁断を行うことで、付属のプラケースにピッタリ収まるようになります。カッターで努力すると切れると思いますが、糸ノコのようなものの方が簡単に切れます。
併せて、ジャンパ線をハンダ付けする部分のレジストをはがします。カッターでコリコリと削りますが、じっくりやらないとパターンの他の部分を傷つけてしまいます。慎重に作業しましょう。
ここまでの作業は、部品を取り付ける前に行うべきです。
説明書では、部品配置図右上の高圧電源部に使う部品と他の部分の部品の区別がつきません。基本的には、「大きい部品は高圧部用」です。
次に説明書では、肝心の GM 管の向きがわかりにくいので、しっかりとデータシートを参照する必要があります。しっぽのような軸がアノードで、管自体がカソードです。カソードは、付属の金具をハンダ付けして、本体に直接ハンダを落とさないようにします。
同様に説明書には、10 μF の電解コンデンサの極性について説明がありません。リード線の長い方がプラスです。
R1 の取付について、参考部品配置図の下に VR を使用する場合の注意として、「取付時にセンターポジションに」するよう記述されています。R1 は、調整用の抵抗なので、VR を使用する場合は、100Ω弱にした方が良さそうです。付属の半固定抵抗は 500Ωなので、センターでは 250Ωになってしまいます。テスターを利用して調整しておきます。実際に 200Ω付近から、鳴りが異常になりました。
圧電ブザーは、ペタンコのものがついていました。ブザーにリード線がついています。説明書には、ブザーをプラケースの蓋に付けるよう書かれていますが、蓋の開閉の際、リード線が簡単に取れてしまいました。ケースの底に取り付けた方が良さそうです。この場合、ハンダ面でショートしないように配慮が必要です。セロハンテープでとめた後、紙を上から貼りました。
静かな場所であれば、ブザー用の穴は空けなくても十分な音量が得られます。また、少し大きめの圧電ブザーに交換することで、より大きな音が出たとの報告がありました。
デジタルカウンタ部の製作については、「ガイガーカウンタ用液晶カウンタを作ろう」を参照して下さい。 (25th, Apr, 2000)
動作試験
ハンダ付けが終わったら、IC を差し込む前に、ブリッジがないか確認します。基板上の部品配置に余裕があるので、あまり問題はないと思いますが、ルーぺを使うと良いでしょう。また、極性のある部品については、接続方向を確認しておきましょう。
IC を差し込んで電池をつなぐと、すぐに鳴り始めます。と、いっても実際には、1 分に 1 〜数回「ピッ!」と鳴るだけなので、最低でも 1 分待ってみましょう。
また、説明書の最後に記述のある方法です。GM 管に直に触る方法ですが、「じぇんじぇん」ビリっとしません。激しく「ピリピリ」と鳴りますが、心臓が多少弱い方でも大丈夫です。それでも鳴らなければ、GM 管と同時に、回路の他の部分を触ってみて下さい。
実験
せっかく作ったのに「ピコピコ」鳴らないとつまらないので、各方面の情報に基づき各種の放射線源で測定を試みました。
- カリウム K (其の一)
- 園芸用のカリ肥料を求めて、ホームセンターに行きました。山積みになった肥料に近づけてみましたが、明確に判別できるほどの反応の変化はありませんでした。
- カリウム K (其の二)
- 人体にも結構な量のカリウムが含まれているとのことで、某所に出かけました。丁度、儀式が行われていましたが、さすがに近づくことができず、測定を断念しました。
- カリウム K (其の三)
- コンクリートに含有するカリウムが放射線を出すとのうわさで、町中を歩いてみました。残念ながら、これも明確には測定できませんでした。
- プロメチウム Pm (其の一)
- 放射線の部屋で紹介されている夜釣り用の浮き「深海玉」を入手しようと釣り具屋に行きました。しかし、カタログにも見当たらず、メーカに問い合わせたところ、数年前に製造を中止されたそうです。
- プロメチウム Pm (其の二)
- グロー管に使用されているとのことで、分解してみました。
筆者が年度末でテンパっております。ここんとこ、今しばらくお待ちください。
- アメリシウム Am
- 煙感知器の一部に線源が入っているとの情報があったので探してみました。しかし、あれこれ調べたところ、この数年で、積極的に撤去されているようで反応するものを見つけられませんでした。
- ラドン Rn (其の一)
- 空気中のラドンを掃除機で集める方法でラドンを集める方法では・・・掃除機が必要でした。しくしく・・・。
- ラドン Rn (其の二)
- 飛行機に乗って高いところに行くと、結構鳴るとの情報があり、2000 年 4 月 22 日と 23 日に新潟 - 大阪 (伊丹) 間の飛行機に乗る機会がありましたので実験してみました。地上で 3 〜 5 回/分鳴っていたのが、飛行中は 5 〜 12 回/分になりました。「よく鳴る」との情報だったので、もっと鳴りまくるのかと考えていましたが、差はあるものの倍程度でした。飛行高度や天候、季節などの影響もあるのかも知れません。
搭乗時の持ち物検査で何か言われるかと思いましたが、新潟・伊丹の両空港とも何のお咎めもなくゲートを通過できました。なお、離着陸時には電子機器の使用が制限されています。「制服姿のきれいなネェちゃんに叱られたい」って方以外は、予め電源を切っておきましょう。
その後、鳴りかたの違いについて、飛行高度の差が影響するのではないかとの指摘を受けました。制服姿のきれいなネェちゃんに確認するのを忘れていたのは不覚でしたが、ANA の全日空カスタマーサービスに問い合わせたところ大変親切に教えてくれました。一般に国内線の飛行高度は、30000ft (約9144m) で、国際線の場合、40000ft (約12192m) 近くまで上がりますとのことでした。「ご搭乗機の高度についてはお時間がかかりますがお調べしましょうか。」とのお申し出をいただきましたが、仕事の邪魔をするにもホドがあるので遠慮しました。 (12th, May, 2000)
余談ですが、「カスタマーサポート」なるところへ電話をする場合、コンピュータ関連業界の常識として、最低でも 10 回程度の話中を覚悟する必要があります。また、やっと電話が通じたと思っても、怪しいアナウンスを延々聞かされることがよくあります。
ANA に電話をして驚いたのは、1 回の呼出音ですぐに応対してくれたことです。また、「飛行機の高度について教えて欲しいのですが」と伺った直後の言葉は「ご気分でも悪くなられたのでしょうか?」でした。業界が変わると「顧客」というものの考え方がこうも違うものかと感心しきり、反省しきりでありました。
- ラドン Rn (其の三)
- 雨の日などに地表面に降下して来るらしいのですがイマイチ実感できません。ただ、日によって鳴り方は変化しているような気がします。
- トリウム Th
- モナズ石 (Monazite) という鉱物に含まれているそうです。検索エンジンで探して見たら、鉱物標本を取り扱っているお店から、数千円で入手できそうです。ただ、「いしまにあ」ではないので、悩ましい金額です。
- セシウム Cs
- 測定器等の校正用に販売されていますが、\5,700 円のガイガーカウンタの為に数万円以上する線源を購入するのはもったいない気がします。しかも、飽きたら後始末に大いに困ります。
- その他の線源
- 放射線と言えば医療機器が思い出されました。知り合いの放射線科の先生に相談してみたところ、「放射線源に近づけるのは放射線技師さん」とのことで実験できませんでした。医者には困らない NISOC です。この路線での線源探しは続けてみたいと思います。 (いいのか?)
もちろん、線源をお借りできるというお申し出は大歓迎です。
と、いうわけで、これまでのところ「もっともらしい」線源には辿りつけていません。全体的に放射性物質そのものや応用したものは、入手困難になりつつある傾向のようです。
また、あくまでも噂ですが、東京電力の柏崎刈羽原子力発電所に行くと、「建屋内では鳴らないが、シャトルバスで鳴りまくる。」そうです。原子力エンジンで走っているとの嘘も聞いたことがあります。
基本的に、このキットの能力では、それなりの線源がないと、BG に埋もれて明確に測定できないというのが実状のようです。やはり、ブツを入手するか、柏崎のバスを目指すのが手っ取り早いのかも知れません。
今後の予定
日常携帯していると、知らないうちに管理区域に近づいたり、隣の家で臨界事故が起こった場合などにはすぐに気が付くのでうれしいですね。合宿で一緒に作ったデータロガーに接続して、環境放射線の定点観測なんかもできそうです。
な〜んて、書くだけ書いて、ボ〜としてたら金沢の小藤さんから「連続測定やってみました」とメールをいただきました。本格的です!! (17th, Dec, 2000)
参考
次の各サイトは、購入前から大変参考にさせていただきました。感謝します。ここに紹介するいくつかのサイトは、前半が主に放射線を中心に扱ったもの、後半が主にキットの製作を扱ったものです。科学実験系のサイトはついつい寄り道してしまう魅力があります。
- たまきち's HomePage
http://www.bekkoame.ne.jp/~kitamula/
都立上野高校北村俊樹先生のサイトです。高校生の物理関連の大量の情報があります。
「放射線の部屋」にこのキットを利用した放射線関連の実験が満載されていて、ついつい読み込んでしまいました。
「よせなべ物理実験集」は、埼玉県高等学校理化研究会の先生方が作られた実験集で、北村先生がインターネット版を作成されたそうです。「原子構造・原子核・放射線編」に放射線関連の実験が紹介されています。テレビでもお馴染みの米村傳次郎先生等の簡易ガイガーカウンタに驚愕しました。
リンクのお許しをいただいた際、「音声と運動の実験室」の原子炉シミュレータをご案内いただきました。制御棒を抜き差しして中性子の数を一定にしてあげるのですが、結構、燃えてしまいます。「原理的」原子炉ですら面倒なので、「実際的」な原子炉が事故らないのが不思議です。
- 原子力研究総合センター全国共同研究部門
http://kaihoken.tokai.jaeri.go.jp/
日本原子力研究所 (原研) の原子力研究総合センター全国共同研究部門のサイトです。教育資料として「放射線と正しくつきあうために」というコンテンツがあり、放射線についてわかりやすく解説されています。
- 国際原子力総合技術センター
http://nutec.tokai.jaeri.go.jp/Panfu/JTEC0.htm
日本原子力研究所 (原研) の国際原子力総合技術センターのサイトです。「一般人用の教材」にドライアイスとアルコールを用いた「手作り簡易型霧箱キット」の情報があります。ガイガーカウンタと併せて実験できると楽しそうです。
- 個人で作る連続観測システム
http://llrl.ku-unet.ocn.ne.jp/kofuji/measure/index.html
ガイガーカウンタキットを利用した連続観測システムを紹介されています。作者は物質科学の専門家だそうで、オモチャのようなこのキットが、グッと科学的に見えてきます。他にもカメラや温度計など連続観測の事例が具体的に紹介されているのですが、この手の事例としては、珍しく (?) 全て、68K Mac で処理されています。まだまだ、現役ですねぇ。
- Satoshi's Home page
http://www.asahi-net.or.jp/~gt6s-sbic/index.htm
四分一敬 (しぶいち さとし) さんのサイトです。「電子工作」 にこのキットの情報がありました。雲母窓の高感度ガイガー管やブツの入った煙関知器等どこから入手されてんでしょう。自ら、平凡な会社員と書いておられますが、天体観察のページ等を拝見すると「マニア」であることは明白です。また、珍しいご名字についての説明もあります。:-)
- 電子工作の部屋
http://www.geocities.com/Heartland/Garden/7500/electro/electr0.htm
今回参考にさせていただいた中で最も異色のサイトです。このキットの製作について、最も参考にさせていただきました。本来は、スナネズミの飼育記録のサイト「スナの部屋」のオマケだそうです。謎の女性の手によるもので、その緻密な記録には圧倒されてしまいます。そのスジの方かも知れません。
- 鳥頭の城
http://www.jah.ne.jp/~aiai/riezo/
哲人西原理恵子氏の公式サイトです。名著「できるかな」は、今回のガイガーカウンタキット製作のきっかけになりました。「りえぞおライブラリ/Library」に書籍の案内があります。関係者は何らかの方法で入手の上、座右の書としましょう。
リンクのボタンは、「リンクなさる時はこのボタンを使って下さいませ。」と書かれていたので、無理から貼ってみました。チョイト浮いちゃってますが、楽しいので使わせていただいてます。
- 浜松ホトニクス株式会社
http://www.hamamatsu.com/
キットに含まれる GM 管のメーカで、世界的な超ハイテク企業です。
- 社団法人日本アイソトープ協会
http://www.jrias.or.jp/
アイソトープや放射線に係る各種の研究や普及をするところだそうです。各種のブツはここで売ってます。
- (有)秋月電子通商
http://www.AKIZUKI.ne.jp/
言わずと知れたこのキットの発売元です。
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