大規模災害の発生時に通常の通信回線や電源等の確保が極めて困難になることは、阪神淡路大震災の例からも明らかである。このような場合における生存者情報の登録および検索を行う手段として、衛星携帯電話とノートパソコンを用いる事により、被災地からの情報交換ができるものと考えられる。
今回の実験では、システム構築の方法、利用上の問題点を明らかにすることを主な目的とした。
新潟市東堀前通り7番町1017番地
NTT新潟支店プラザビル前路上
NTT DoCoMoサテライト・ポータブルホンN(可搬型)
内蔵データ/FAXユニット、DSU、PBユニット他
TOSHIBA PORTEGE620CT(Windows95)、Intelligent LM28X(AboCom)モデムカード
PC-9821Ls13(NetBSD/pc98)モデム内蔵
自作NiCd電池駆動可搬型HUB(5port)
その他
9600bps(V.42bis)で接続。
Windows95を用いたダイアルアップPPP接続を行った。
回線の接続に時間を要したことと、発信中の信号音が通常の電話回線と異なっていること、モデム間のネゴシエーションに時間を要したこと、また、ネゴシエーションに失敗する事もあり、安定した接続を得るための試行錯誤が必要であった。
WWWを用いた生存者情報の検索・登録に関しては、十分な速度が得られた。
9600bps(V.42bis)で接続。
10Base-TによるLANを構築し、NetBSD/pc98機からのダイアルアップPPP接続を行い、Windows95機との回線の共有を行った。
NAT(Network Address Translation)およびDHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)の設定不良のため、数回接続をやり直した。
また、電子メールやネットニュースの読みだしを行ったところ、体感的な「遅さ」を感じた。
WWWを用いた生存者情報の検索・登録に関しては、十分な速度が得られた。
Windows95を用いたダイアルアップPPP接続を行ったが、「サーバに設定されたプロトコルが使用できません。」というエラーが発生したため、再設定を試みたが、接続に成功しなかった。
10Base-TによるLANを構築し、NetBSD/pc98機からのダイアルアップPPP接続を行い、ノートパソコン3台による回線の共有を行った。
WWWを用いた生存者情報の検索・登録に関しては、十分な速度が得られた。
衛星携帯電話を利用してダイアルアップ接続を行う場合の注意点は次の通りである。
システム全体は、衛星携帯電話本体、ハンドセット、携帯電話、NCU、PBユニット、モデム、パーソナルコンピュータから構成され、それぞれの接続ケーブルが煩雑になりやすい。今回は、輪ゴム数本とビニール袋(スーパーマーケット等で配布しているもの)を利用してまとめた。また、PBユニットとモデム間のケーブルを長いものに交換することで、移動や設置がしやすくなった。
衛星携帯電話は、地上に設置されたアンテナからの電波が利用できる状態では衛星回線を使用せず、地上の電波を優先的に選択するようになっているので、今回の実験では、優先的に衛星回線を利用するように設定を行った。この設定方法は、マニュアルに記載がないが、実際の災害時には、一般の携帯電話回線が混雑することが予想されるので、衛星回線を優先する設定方法を公開した方が良いと考えられる。
機材の設置は、その都度、屋内から屋外に移動して行った。困難が予想されたアンテナの位置と方向の決定は、極めて簡単にできた。注意すべき点として、衛星からの電波強度を示すレベルメータの反応が悪く、ゆっくりと方向を設定する必要がある。意図的に方位角や仰角を変えてみたところ、目測でそれぞれ30〜40度程度の幅で、良好な状態を維持できた。したがって、多くの人にとって、衛星携帯電話の設置は簡単なものであると考えられる。
しかし、アンテナの前方には、強電界が発生するため、人体への影響を配慮すると、十分な高さの台を用意するなど、設置場所に配慮することが望ましい。オプションの外部アンテナと接続ケーブルの活用も検討すべきである。
モニタディスプレイの視認性に関しては、最後に行った実験以外は屋外が明るく、極めて悪かった。フードカバーのようなものを用意するか、コンピュータを屋内に設置するなどの対策が必要である。
被災地においては、十分な通信回線数を確保する事が困難な場合が発生する。このような場合には、ネットワークを形成して多人数による通信回線の共有を行う必要があると考えられるが、一般的に普及している10Base-Tによるネットワークの場合、3台以上を接続するにはHUBが必要となる。しかし、市販されているHUBは、商用電源を必要としているものが多く、被災地におけるネットワーク構築には適当ではない。これを改善するための案として、
今回の実験で確認できなかった点として、電源確保の問題がある。衛星携帯電話用のバッテリは、フル充電に約160分を要し、約50分の連続通話が可能になることから、十分に活用する上では、3セット以上のスペアバッテリと充電器が必要であると考えられる。
また、電源確保の方法のひとつとして、自動車のシガライターソケットからの給電を行うことが考えられる。しかしながら、どの程度の車が、どれくらいの給電能力があるか、あるいは、十分な容量のインバータが用意できるのかといった問題について調査の必要がある。
一方で、電子メール等を利用した、登録・検索情報のまとめ送りができるようなシステムを構築し、通信時間を短縮する努力を行う必要性もあると考えられる。
今回の実験では、衛星携帯電話とノートパソコンを用いたインターネットへのダイアルアップ接続を行い、WWW経由による生存者データベースへの登録を行った。その結果、衛星携帯電話によるインターネット接続が実用的である事を確認した。
また、電池駆動型HUBとLAN接続による回線の共有試験を行い、複数人での共有が可能である事を確認した。
これらの事から、災害時における衛星携帯端末とノートパソコンを用いたインターネット接続は実用的であろう。
衛星携帯電話の貸し出しに御協力を頂いた、 NTT DoCoMo新潟支店様及びドコモショップ新潟様、そして、実験現場での作業と本報告書作成にご協力を頂いた、新潟インターネット研究会の各氏に感謝致します。